法人税だけでは課税が完結していません
今回は配当金に対する課税について見ていきます。
所得税と法人税でワンセット
税目の主なものに、所得税と法人税があります。個人の所得に対しては所得税、会社の所得に対しては法人税が課されます。どちらも所得(もうけ)に対して課税する税金です。
ここで素朴なギモン。なぜ、個人所得税、法人所得税と言わないのか。意味合いからすればそのほうが正しい呼び名のように思えますが、そうなっていません。なぜか。それはおそらく、この2つの税金が並列の関係ではないからです。
法人税というのは会社の所得に対して課税する税金です。ただ、会社の持ち主は誰かというと、それは株主です。株主が会社という「箱」を使って金もうけしているだけです。だから本来は株主に課税すべきだと思うんですけど、会社に法人格があることや諸々の事情に考慮した結果、会社に対して課税するというところに落ち着いてるのではないかと思います。
ただし、法人税で課税が完結するというわけではなく、法人税を支払った残りのお金が株主に配当されると、その配当金に対して所得税が課税されることになります。いわば、法人税は半分課税程度で、配当金に対する所得税が課税されてはじめて課税が完結するということです。ある1つの所得に対して、2つの税目で徐々に対処していくとでもいえるでしょうか。
このように法人税と所得税は、並列というよりもむしろ直列の関係にあります。呼び名の件はこういった事情もあるのかもしれません。
利益はすべて配当すべき
配当して個人に課税されて完結するという考え方からすると、現実は不都合なことになっています。会社があんまり配当しません。あんまりっていうと語弊があるかもしれません。よくて利益の半分くらいでしょうか。もし半分配当しているとしても、もう半分は配当されず社内で再投資されます。事業規模を拡大したり、他社を買収したりするんでしょうね。でも、そのお金、課税が完結していないままです。ちょっとおかしいんです。
税金の面からすると、会社の利益はいったんすべて配当して課税を完結させる。そのうえで、もし事業拡大とかで追加の資金が必要なら、あらためて株主に経営計画をプレゼンして出資してもらう(増資)というのが本筋でしょう。
こういうのってよく大航海時代の船団に例えられますが、たとえばもしコロンブス(経営者)がスペイン女王(株主)に断りなく西インド諸島での収奪物を勝手に換金して、その金を元手に船を増やしてさらにあちこち行こうなんてしたら、スペイン女王は怒りますよね。あんた一度スペインに戻ってきて成果をよこしなさいって言うはずです。
会社の利益を配当しないで事業資金に回しているということは、株主からしたらスペイン女王のごとくお怒りものですし、税金の面からしても困ったものです。ただ、上場企業は業績を上げて株価を上げるという要請もありますので、いい塩梅で折り合いをつけているということなんでしょうけど。税金としては課税が完結してないので問題です。
配当控除
さて、前述した法人税と所得税の関係性を具現化する制度は、所得税の配当控除(税額控除)です。
配当収入は配当所得として総合課税されますが、もし丸々課税してしまったら法人税で課税された分と重複課税になってしまいます。そこで、調整を行うのが配当控除(税額控除)です。配当所得の10%(または5%)を所得税額から差し引きます。個人住民税でも同じような制度があります。
理屈からすれば法人税相当額を差し引くんじゃないの?って思うんですけどね。そうはしないでなぜか10%。どうして10%なのかはわかりません。さらに、高所得者の場合は5%に下がってしまいます。なんとなく反対のような気がしますが。制度の趣旨とテクニックがかみ合っていない印象を受けます。高度成長期のあんまり配当しない時代に作ったんですかね。
計算してみました
所得税と個人住民税の税率関係をパターン表にしてみました。ざっくりイメージです。数字はすべてパーセントです。
所得税 | 住民税 | Total | ||
---|---|---|---|---|
限界税率 | 配当控除 | 税率 | 配当控除 | |
5 | 10 | 10 | 2.8 | 2.2 |
10 | 7.2 | |||
20 | 17.2 | |||
23 | 20.2 | |||
33 | 30.2 | |||
5 | 1.4 | 36.6 | ||
40 | 43.6 | |||
45 | 48.6 |
法人での税率を仮に30%(課税後の残り=配当原資70%)とすると、会社の利益に対する税割合はこうなります。
法人課税(仮) | 個人課税 | Total | 理想 |
---|---|---|---|
30 | 1.54 | 31.54 | 15 |
30 | 5.04 | 35.04 | 20 |
30 | 12.04 | 42.04 | 30 |
30 | 14.14 | 44.14 | 33 |
30 | 21.14 | 51.14 | 43 |
30 | 25.62 | 55.62 | 43 |
30 | 30.52 | 60.52 | 50 |
30 | 34.02 | 64.02 | 55 |
理想欄は所得税の限界税率(その年にその人に適用される税率のうち一番上の税率のこと)と個人住民税の税率の合計です。会社の利益は株主の利益と考えると個人の税率分が理想だろうということで記しました。税率が高いパターンではそれなりっぽいとこですが、低いパターンを中心に全体的に取りすぎな印象になりました。これじゃあ配当する(もらう)意欲が湧かないですね。
選べる課税方式
ここまでは総合課税の場合を見てきましたが、小口の株主が上場株式等についてもらう配当については、申告分離課税(15%)や、申告不要制度(15%源泉徴収)を選ぶことができます。こうなっちゃうと専ら金融商品としての扱いになってしまって、会社は株主のものって要素がゼロになっちゃってますね。小口だからどうせ意見通らないからいいのか。だからといって15%は取りすぎな気がします。
まとめ
今回は個人が株主の場合を見てきました。社会問題としてのとらえ方とご自身のタックスプランニングとしてのとらえ方と分けて考える必要がありますが、会社経営者のみなさんとしては、法人税一回課税されてしまえばずっと会社に塩漬けにしてても何もされないから安心ってことで、通常は配当しないということになるんでしょう。配当は役員報酬みたいに損金になりませんし、もし配当して増資してなんてを繰り返してたら資本金が増えてしまって損することばかりですし。
社会問題としては次の選挙の候補者なり政党なりに配当税制についてどう考えているのかを問いただしたいところです。配当しないというのは富の偏在の元凶ですから、代議士には確固たるビジョンが求められます。時々企業の内部留保に課税すればいいんだなんてレフトな意見を聞きますがそれは雑すぎ。配当税制をきっちり見直して、からの話だと思います。
(留保金課税は現在でも存在しますが、オーナー経営の大企業など一部の企業しか対象になっていません)
2020月9月23日