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まつきよ税理士事務所

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医療費控除は廃止すべき

医療費控除について常々思っていることを記しながら、まとめていきます。

医療費控除の概要

医療費控除は、所得税の所得控除の項目のひとつです。所得税は文字通り「所得」に対して課される「税」ですが、その「所得」から医療費(の一部)を控除して残りに課税することになります。

考え方はこうです。一般に生活費は可処分所得(税金支払い後の残金)から捻出しなければなりませんが、医療費(のうちの一部)は所得(稼ぎ)から直接捻出するようなイメージです。そうすると課税される分がその分少なくなります。自営業の経費みたいなもんというと語弊がありますが、結果としては経費みたいなかんじになります。

いくら控除できるかというと医療費の全額ではありません。こちらの計算式の答えが控除額になります(最大200万円まで)。

( 医療費 - 補てん )- 足切り(たいてい10万円)

補てんというのは、健康保険からもらう各種給付金や生命保険からもらう保険金などのことです。たとえば、手術したときなどひと月の医療費が高額だったときにもらえる高額療養費や、生命保険の入院給付金などです。そういったものがあれば医療費から差し引いて控除額を計算します。

足切りはたいていの場合10万円です。足切りが10万円の場合、医療費(補てん引いた後)が10万円以下なら控除0円ということになります。年間10万円までいくかというと、若い人はそこまで医療費がかからない人がほとんどでしょうから、医療費控除をする人はまれでしょう。反対に高齢者はだいたい10万円以上いきますから、多くの人が医療費控除をするわけです。

健康保険と重複している

それでは問題点をみていきましょう。一つ目は健康保険と重複しているです。

医療費はある意味で自分の意思とは関係なく生じるやむを得ない出費です。急な出費で生活がさぞたいへんだろうと、何かしらの配慮をしてあげたくなるのもわからなくもないです。しかし、そもそも日本は国民皆保険で、患者が支払う医療費(窓口負担)は本来の3割などに抑えられています。残りの7割などは保険者(健康保険組合など)が負担しています。

さらに、前述しました高額療養費制度もあります。ひと月の医療費が高額になった場合に、ある水準を超えた分が健康保険から支給される制度です。その水準というのは前年中の所得によるのですが、10~25万円くらいです。つまり、保険診療である限り、ひと月にその金額以上を自己負担することはないということです。とても安心ですよね。

こうしてみてみると、たしかに健康保険料を負担しなければいけませんが、健康保険でかなりうまく調整してくれてると思います。ここまでしてもらっていて、さらに医療費控除で自己負担分の3割の一部をさらに税金で面倒みようというのは、どうなんでしょうか。

逆進性がある

二つ目の問題点は、逆進性があることです。

前述しましたとおり医療費控除は所得控除の項目のひとつですが、一般に所得控除ですと課税に逆進性が生じます。逆進性とは、一言でいうと高所得者優遇です。その年の高所得者ほど所得控除によって減少する税額が多くなります。

たとえば、医療費が20万円だったAさんとBさんというサラリーマンが2人いるとします。Aさんは年収3000万円(高所得者)、Bさんは年収300万円(低所得者)でした。こうした場合、Aさんは医療費控除によって所得税が4万円減る一方、Bさんは5千円しか減りません、といった差が生じます。

なんか逆じゃねって思いませんか。Bさんはわずかな生活費から支出した20万円です。生活に影響がありそうです。しばらくは食費を削らないといけないかもしれませんし旅行もあきらめないといけないかもしれません。一方、Aさんはあまりある生活費からの20万円です。生活に影響はないでしょう。同じ20万円でもその人にとっての重みはちがいます。それなのに、税の減少額はAさんのほうが多いのです。どう思われますか。

不公平な実状

三つ目の問題点は、不公平な実状です。現実に制度を公平に運用することが難しいのではないかということです。

医療費控除をじぶんで確定申告する人がたくさんいます。税理士に頼む人なんてほんの一握りでしょう。ですから、ちゃんとできてる人はまれだと思います。そして、ちゃんとできてなくても税務署から指摘されることはほとんどないでしょう。数年前から領収書の提出を要しなくなったこと、医療費控除をする人が多い(約750万人)ことを鑑みると、税務署ですべてチェックすることは不可能です。

たとえば、前述のとおり補てんは差し引かなければなりませんが、ちゃんとできているでしょうか。

対象となる医療費だけにして、対象外の支出を含めていないでしょうか。たとえば、健康診断や人間ドック費用は「診療・治療」ではないので(原則)対象ではありません。マッサージはどうでしょうか。じぶんは「治療」のつもりでもその多くは対象ではありません。「診療・治療」できるのは国家資格者(あん摩マッサージ指圧師・鍼灸師・柔道整復師)のみです。それから、美容整形や審美歯科なども「治療」ではないので対象ではありません。健康食品は健康増進のためであり、「治療」のための「医薬品」ではありませんからもちろん対象外です。

ただ、こういったものを含めて確定申告している人はけっこういると思います。それは私のこれまでの税理士事務所・青色申告会・各種無料相談会などの実務経験を通じての実感です。まじめな人が損をする不公平な制度ですよ。

というわけで、もし仮に医療費控除が必要な制度だとしても「絵に描いた餅」であり、まともに運用できるものではないと思います。

もし医療費控除を廃止したら

これまで医療費控除の問題点をみてきました。つぎはもし廃止したらどうなるだろうかを考えてみます。

もし医療費控除を廃止したらこれまで見てきた問題点が解消されるでしょう。この限りにおいては、不公平でなくなり、まじめな人が損しないですみます。健康保険との重複もなくなりますし、税の逆進性による高所得所優遇もなくなるでしょう。

それから、税務署がラクになるでしょう。医療費控除は「高齢者のたしなみ」です。その大半は年金収入だけで医療費控除を申告する人でしょう。税務署に行ったときに感じるのは、高齢者がうろうろしている。申告用紙やパンフレットをむやみに漁っている。世田谷税務署で怒鳴っている高齢男性を見かけたこともありました。もし医療費控除がなくなれば高齢者の来所が大幅に減るのではないかと思います。そうすれば税務署の確定申告対応が軽減され、本来業務(調査・徴収)に集中でき、課税の公平性がより一層実現されるものと考えます。

医療保険制度にもよい影響があるのではないかと考えます。高齢になると毎年医療費控除をします。そうすると、医者通いをまじめにするようになります。足切りがたいていは10万円ですので、10万円に達するように医者に通うようになります。必要以上に医者に通うようになり、必要以上に薬を処方されても文句を言わなくなります。そして無事医療費控除を済ませて充実感を味わい、来年も頑張ろうと決意します。そうです、医療保険の無駄遣いです。この悪循環を断つには医療費控除を廃止すべきと考えます。

さいごに医療・介護施設などの負担が減るのではないかと思います。領収書を発行するための費用や再発行の手間などです。とりわけ介護施設は介護費用のうち医療費控除の対象になるものとならないものを区別して領収書に表示しなければなりませんので、たいへんだと思います。介護って制度が複雑でほんと難しそうです。

廃止できないにしても

廃止できないとしてもこれまで挙げてきた問題点を是正するような改正はしてもらいたいものです。たとえば、足切り金額を10万円から20万円に上げる。そうすると高齢者夫婦でも持病の通院くらいではそうそう届きません(届くか届かないかくらいかな)。「毎年の恒例行事」から「たまにの特別なイベント」になり、よい効果が生まれるのではないかと思います。

保険診療以外について上限額を設けるのはどうでしょうか。保険診療なら領収書がありますし自治体でも集計していますので確実な金額です。一方、自由診療などは、配慮すべきものでもありません。

市区町村が集計している保険医療費の情報だけをもとに個人住民税からのみ控除するというのもよいかもしれません。これなら確定申告は関係ないですから税務署はラクになります。個人住民税ですと逆進性もありません。

ウラを返せば

私個人としては廃止したらいいんじゃないかと思いますが、今は制度がありますので、廃止になるまではこれまで見てきた特徴を逆手にとって有効活用しましょう。

まずは対象となる医療費をもらさないこと。対象外のものを入れてはいけませんが、対象になるものはもれなくかき集めましょう。医者のだけでなく、市販薬、介護費用のうちの一部などをお忘れなく。ご家族の分にも注意しましょう。

もうひとつは、不要不急かつ高額な治療費(レーシックやインプラントなど)は、高所得者になる年に支出すること。あるいは、高所得者は自由診療を積極的に検討してもよいかもしれません。医療費控除で限界税率分は所得税が減少するわけですから。もし仮に限界税率が40%だったら、実質6割負担で済むということになります。

まとめ

以上いろいろと考えてみました。10年ほどこの仕事をしてきて、もういいかげんこんなの辞めようよって思ってます。自営業者以外の一般ピープルにこのような制度は不向きです。ズルする人ばっかりだし、ろくに制度を調べてないでしょうから。なにせごみの分別だってろくにできてない連中ばっかなんですからね。

もし医療費控除がないばかりに困窮する人がいるのであれば、それは税金でなくほかの制度で救済すればよいと思います。といいますか、すでに高額療養費制度など救済する制度があって、単に重複しているのだと思いますが。

所得控除はある意味でアナログ時代の手法だと私は思います。紙オンリーでそろばんの時代は、なかなか自治体が情報を迅速に把握できなかったのでしょう。まあいいかげんな制度だけど、大雑把にこれでいいんじゃないかくらいのかんじで、ほかに方法がないから、所得控除にしたような気がします。今はもうデジタル時代ですし、マイナンバーもはじめて、自治体でだいたい把握してますよね。それできめ細かくすればよいと思います。

税理士としては仕事のひとつとして、医療費控除はありがたいんです。仕事になりますから。どんだけ丁寧に仕事してるかを表現するのにうってつけですし。でも、そういう我田引水な考え方はかっこよくないので、医療費控除が廃止されて公平な課税になって、まじめな人が損をしない世の中になってほしいと願っています。

2020月8月21日


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