まつきよ税理士事務所

原材料の値上げにどう対処するか

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原材料の値上げにどう対処するか

ロシアによるウクライナ侵攻や円安ドル高の影響と言われています。食品などの値上げが止まりません。生活するのにも困ってしまいますが、商売する上でも原材料の仕入れ値が上がってしまい経営を圧迫しかねません。今回は原材料の値上げに対処する際の考え方を見ていきます。

何もしないと

飲食店を例に考えてみます。食材というと輸入しているものが多く、また国内生産品も原油高によって軒並み高騰しています。飲食店は今とても大変だと思います。食材の仕入れ値が上がってしまうと、粗利益が減ってしまいます。

1000円のランチ定食を思い浮かべてみましょう。昨年までは1000円ランチ定食の食材費は300円だったとします。粗利益は1000円から300円を引いた700円でした。ところが現在は仕入れ値が上がったせいで食材費は400円になりました。そのため、粗利益は1000円から400円を引いた600円になりました。

仕入れ値がいくらなのかをお客さんは知りません。ですので、販売価格をそのままにしている限り、仕入れ値が上がってしまってもお客さんは今までどおりだなとしか思いません。一方、お店は粗利益が減ってしまうので経営が苦しくなってしまいます。

販売価格に転嫁すると

仕入れ値が上がったら価格転嫁すればいいのではないかと思いますが、今までと同じものを値上げして販売するとなれば、お客さん(客数)が減ってしまうでしょう。

先ほどの例でいうと、内容を一切変えずにランチ定食を1000円を1100円に値上げしたら、やはり客数は減ってしまうでしょう。

限界利益と客数

仮にランチ定食だけを提供しているお店だとして、一食当たりの粗利益のことを限界利益といいます。限界利益に一か月の提供数(=客数)を乗じると、一か月の粗利益が計算できます。

ランチ定食1000円(食材費300円、粗利益700円)を一か月で1000食販売したとすると、その月の粗利益は、700円 × 1000食 = 70万円となります。

今般の仕入れ値高騰を受けて食材費が300円から400円になったとします。つまり限界利益が600円になったとします。このとき、もし販売価格を据え置き、その甲斐あって客離れなく1000食販売できたとすると、その月の粗利益は、600円 × 1000食 = 60万円となります。粗利益が10万円減ってしまいます。

同じく食材費が300円から400円になった場合に、食材費高騰分をそのまま販売価格に転嫁して、1000円から1100円に値上げしたらどうでしょうか。客数は減ってしまうと想定されます。どれくらい減ってしまうかはわかりませんが、1000食から700食になってしまうとしましょう。限界利益は700円のままですので、その月の粗利益は、700円 × 700食 = 49万円となります。従前の70万円と比べ21万円粗利益が減ってしまいました。

固定費もある

粗利益が減りますなんていうと、「そんなに儲けたいわけじゃないから、まあいいか」なんて思う人もいるかもしれません。しかし、粗利益=営業利益ではないことに注意が必要です。飲食店を経営するには、家賃や人件費・光熱費などの固定費も負担しなければなりません。これらの固定費はどこから捻出するかというと、それは粗利益からです。

先ほどの例で、固定費が月々30万円としますと、仕入れ値高騰前は粗利益70万円から30万円を引いた40万円が営業利益となります。仕入れ値高騰後に価格据え置いた場合は30万円(60-30)に、販売価格に転嫁した場合は19万円(49-30)が営業利益となります。

いずれもプラスになりましたが、この営業利益はあくまでも店舗の営業利益です。ここから、個人事業主であれば生活費を工面しなければなりませんし、会社経営であれば役員報酬を捻出しなければなりません。また、税負担も考慮しなければなりません。

そう考えると、生活水準や家族構成にもよりますが、最低でも店舗営業利益を30万円くらいは確保できないと苦しいのではないでしょうか。例でいうと、価格据え置きでギリギリセーフ、価格転嫁したらアウトでした。

さらにいうと、固定費のうち光熱費は原油高を受けて値上げされていますので、確保すべき粗利益額は上昇しています。踏んだり蹴ったりです。

複合的な対策

ここまでの例は簡略化するために、価格を据え置いて客数を維持するか、それとも客数が減ってしまうとしても値上げするのか、の2択で見てまいりました。しかし、実際は2択のどちらも取り入れたり、さらにそのほかの対策も講じたりと、ミックスして対処されるのではないかと思います。

そのほかの対策としては、たとえば、ランチ定食のご飯の量を減らすとか、あるいは食材の質を落として下ごしらえを工夫してカバーする。それから、同じものを仕入れるにしてもより安く購入する。今まで仕入れたことのない安い代替品を試してみる。

少し毛色が違いますが、最近普及してきましたキャッシュレス決済をやめるというのも一策です。キャッシュレス決済の決済手数料は売上代金の何パーセントですので変動費です。変動費は食材費と同等に考えることができます。仮に決済手数料が3%だとすると、その3%分を食材費に充てることができるのは大きいのではないでしょうか。

まとめ

まずは限界利益がいくらなのかを把握して、そこから改善案を検討していくのがよいかと思います。感覚的なのが大事ですが、こういった理屈っぽいので大まかな方向性を定めたり、裏付けに使って、この難局を乗り切っていただきたいと思います。

2022月9月3日


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