まつきよ税理士事務所

インボイスと取引価格

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インボイスと取引価格

消費税のいわゆるインボイス制度導入が近づいてまいりました。同制度のスタートは来年10月ですが、その時に動き出すのではなく、今のうちから準備しましょう。私もまだあんまりしっくりきていないので、とっかかりやすいところから、少しづつ見ていきたいと思います。第4回目の今回はインボイスと取引価格についてです。

取引価格は自由

インボイス制度(消費税法など)と取引価格は何の関係もありません。取引価格は当事者間で自由に設定できます。ただし、フェアでない場合には独占禁止法や下請法に違反するようですのでご注意ください。

買い手の視点

まずは買い手の視点。取引の買い手が実額計算をする課税事業者、つまり仕入税額控除するのにインボイスの保管が必要な事業者、だとします。そして、その取引の取引相手(売り手)であるAはインボイス登録事業者、Bは未登録者としましょう。

その場合、この買い手はどう考えるか。AはインボイスをくれるからAには消費税相当額を支払ってあげよう、BはインボイスをくれないからBには消費税相当額を支払いたくない、そう考えるかもしれません。

しかしBがインボイス登録事業者でないからといって、課税事業者でないとは限りません。課税事業者であるにもかかわらず、なんらかの理由があって未登録なだけかもしれません。

ちなみに想定される理由としては、手続きの不備(期限までに間に合わなかった)、事業年(度)によって免税・課税事業者の間を彷徨っていて本人が気づいていない、氏名などを公表されたくないので登録しない(できない)、交付したインボイスの写しの保管義務などが煩わしい、などが挙げられます。

もしBが消費税相当額を受け取れないと、実質的に値下げされたこととなり、業績が悪化してしまうおそれがあります。たとえば、従前の取引価格が110(本体100・消費税10)だったところ、100(本体91・消費税9)となってしまうと、消費税を除く本体価格が100から91になってしまうからです。

このことから導き出されることは、インボイスをくれないからと言って、消費税相当額をカットしてしまうと売り手が困るかもしれないということです。現実ではおそらく多くの取引で買い手の方が優位でしょうから、買い手の方は少し慎重な姿勢が求められると思います。

しかしながら、買い手からすれば仕入税額控除できないのに消費税相当額を支払えば、実質的に値上げしたこととなります。こちらも業績が悪化してしまうおそれがあります。たとえば、取引価格を110(本体100・消費税10)としても消費税が控除できませんので、全額(110)が費用となってしまうからです。

売り手の視点

売り手からすれば、取引相手(買い手)が実額計算をする課税事業者、つまり仕入税額控除するのにインボイスの保管が必要な事業者、かどうかははっきりとは分かりません。

インボイスをくれと言ってくれば、おそらくそうだろうと推測できますが、消費税申告書を見せてもらわない限りは、正確には分かりません。もしかすると、本当はインボイスなんて必要ないのにもかかわらず、ウソをついてくる可能性だって否めません。

ただ、そうはいっても大きな会社はインボイスが必要な事業者と考えてよいでしょう。具体的には2年前の売上高(課税売上高)が5000万円を超えているか、です。

経過措置

もし売り手がインボイスを交付しなかったら、買い手は仕入税額控除できません。これがインボイス制度の大原則です。

インボイス制度スタートからそうなります、と言いたいところですが、実はそうではありません。インボイス制度スタートから6年間は経過措置があります。どのような措置かというと、売り手がインボイスを交付しなかった場合でも仕入税額控除ができるというものです。

ただし、インボイスが交付される取引と同じというわけではなく、未交付の場合は一部だけとなります。スタートから3年間は消費税相当額の80%、その後の3年間は消費税相当額の50%の金額を仕入税額控除できるというわけです。

消費税相当額の80%ですから、たとえば10%取引の取引価格110円の場合、8円控除できるということになります。

買い手は売り手の準備不足を大目に見てあげて、6年間かけてお互い良好な取引になるよう話し合ってくださいという意味合いでしょうか。あるいは、経過措置期間のうちに取引相手を整理しろということかもしれません。

まとめ

いずれにしても取引相手に迷惑をかけたくないというのであれば、売り手はできる限りインボイスを交付できるように用意するのが得策でしょう。経過措置があるからいいでしょなんてスタンスだと仕事もらえなくなってしまうかもしれませんから。しかし、経過措置があるのも事実なので、猶予してもらう余地・交渉の余地があるのかもしれません。

2022月4月6日


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