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通勤手当まとめ

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通勤手当まとめ

通勤手当って空気のように当たり前のような存在に思われがちですが、いま一度いろんな角度から見ていきたいと思います。

現物給与だから原則課税

通勤手当とは、給与所得者に対して支給される通勤費相当額のことを指します。通勤費とは、自宅から職場までの移動に必要な費用のことです。通勤費は誰が負担するのか、本来であれば給与所得者が負担するものでしょう。なぜなら、雇用主からすればどこから通勤しようが知ったこっちゃない、職場に来て仕事してくれればそれでよいからです。会社(雇用主)が負担しなければならないものではありません。

会社が負担しなければならないものではないし、自宅の所在地によって費用の多少が異なりますから、通勤手当は何か特別なものではなく、給与の一部です。給与の一部だとすると当然に所得税の課税対象になりえます。次節以降の非課税規定が適用されないものは給与本体と同様に課税対象となりますのでご注意ください。

通勤手当は非課税

通勤手当も給与の一部と前述しましたが、しかしながら、一定の通勤手当は非課税とされます。そのことが、所得税法第九条(非課税所得)に規定されています。

次に掲げる所得については、所得税を課さない。
(中略)
五 給与所得を有する者で通勤するもの(以下この号において「通勤者」という。)がその通勤に必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のために支出する費用に充てるものとして通常の給与に加算して受ける通勤手当(これに類するものを含む。)のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定めるもの

上記の文末「政令で定める」内容は、所得税法施行令第二十条の二(非課税とされる通勤手当)に規定されています。

法第九条第一項第五号(非課税所得)に規定する政令で定めるものは、次の各号に掲げる通勤手当(これに類するものを含む。)の区分に応じ当該各号に定める金額に相当する部分とする。
一 通勤のため交通機関又は有料の道路を利用し、かつ、その運賃又は料金(以下この条において「運賃等」という。)を負担することを常例とする者(第四号に規定する者を除く。)が受ける通勤手当(これに類する手当を含む。以下この条において同じ。) その者の通勤に係る運賃、時間、距離等の事情に照らし最も経済的かつ合理的と認められる通常の通勤の経路及び方法による運賃等の額(一月当たりの金額が十五万円を超えるときは、一月当たり十五万円)
二 通勤のため自動車その他の交通用具を使用することを常例とする者(その通勤の距離が片道二キロメートル未満である者及び第四号に規定する者を除く。)が受ける通勤手当 次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額
イ その通勤の距離が片道十キロメートル未満である場合 一月当たり四千二百円
ロ その通勤の距離が片道十キロメートル以上十五キロメートル未満である場合 一月当たり七千百円
ハ その通勤の距離が片道十五キロメートル以上二十五キロメートル未満である場合 一月当たり一万二千九百円
ニ その通勤の距離が片道二十五キロメートル以上三十五キロメートル未満である場合 一月当たり一万八千七百円
ホ その通勤の距離が片道三十五キロメートル以上四十五キロメートル未満である場合 一月当たり二万四千四百円
ヘ その通勤の距離が片道四十五キロメートル以上五十五キロメートル未満である場合 一月当たり二万八千円
ト その通勤の距離が片道五十五キロメートル以上である場合 一月当たり三万千六百円
三 通勤のため交通機関を利用することを常例とする者(第一号に掲げる通勤手当の支給を受ける者及び次号に規定する者を除く。)が受ける通勤用定期乗車券(これに類する乗車券を含む。以下この条において同じ。) その者の通勤に係る運賃、時間、距離等の事情に照らし最も経済的かつ合理的と認められる通常の通勤の経路及び方法による定期乗車券の価額(一月当たりの金額が十五万円を超えるときは、一月当たり十五万円)
四 通勤のため交通機関又は有料の道路を利用するほか、併せて自動車その他の交通用具を使用することを常例とする者(当該交通用具を使用する距離が片道二キロメートル未満である者を除く。)が受ける通勤手当又は通勤用定期乗車券 その者の通勤に係る運賃、時間、距離等の事情に照らし最も経済的かつ合理的と認められる通常の通勤の経路及び方法による運賃等の額又は定期乗車券の価額と当該交通用具を使用する距離につき第二号イからトまでに定める金額との合計額(一月当たりの金額が十五万円を超えるときは、一月当たり十五万円)

4つのタイプ別に非課税となる金額が定められています。1つ目(一)は、交通機関又は有料の道路、つまり電車やバスなどを利用して通勤する場合。2つ目(二)は、自動車その他の交通用具を使用して通勤する場合。3つ目(三)は、お金でなくて定期券を支給する場合。4つ目(四)は複合タイプです。

電車通勤やバス通勤の人は1つ目、マイカー通勤の人は2つ目、有料道路ありのマイカー通勤の人や、パークアンドライドの人は3つ目を確認すればよいでしょう。

電車やバス通勤の人

電車やバス通勤の場合は上記(一)のとおり、非課税とされる金額は、最も経済的かつ合理的と認められる通常の通勤の経路及び方法による運賃等の額(最高限度一月当たり15万円)です。

「経済的」ということは複数の経路が存在する場合には一番安い経路ということでしょうか。グリーン車などの特別料金などは「経済的」とは言えないかもしれません。もうひとつ、「合理的」ともあります。一番安いとはいってもあまりにも遠回りなものは除外するのではないかと私は思います。「経済的かつ合理的」ということで両方を満たす経路ということです。多くの場合、最安=最短になると思いますので、経済的と合理的が矛盾するケースはそんなにないのではないかと思います。

実際にかかる金額ならいくらでもよいというわけではなく、最高限度額は一月あたり15万円です。ただ、15万円となるとほとんど抵触することはないと思います。

マイカー等通勤の人

マイカーなどで通勤(有料道路なし)の場合は上記(二)のとおり、通勤距離(片道)に応じて課税されない金額が定められています。

片道2km未満なら0円(全額課税)、つまり2kmだったら歩いて通勤しろというメッセージでしょうか。片道2km以上10km未満なら4,200円、10km以上15km未満なら7,100円、同様にその他何パターンか定められています。

ケーススタディしてみましょう。片道5kmで一月20日通勤するケース。この場合一月の総距離は5×2×20=200kmです。一方、課税されない金額は4,200円です。1kmあたりの金額は4,200÷200=21円と計算できます。ガソリンの燃費が20km/Lとすると、21×20=420円。

つまり、ガソリン1Lが420円以下で購入できれば足は出ない計算になります。いくらガソリン価格が高騰しているといっても、まだそこまでの水準には達しないだろうとは思います。しかし、マイカー本体は走れば走るほど消耗する(壊れなくても少なくとも下取り価格は下がる)でしょうから、コミコミで考えるとすると足りない気がしないでもない。

なお、上記施行令(二)には、「自動車その他の交通用具」とありますので、自動車に限らず、他の乗り物にも適用されるものと思われます。国税庁の資料にも「自動車や自転車など」と記載されていたりします。自転車もバイクも電動キックスクーターもおそらく含まれるのでしょう。自転車はガソリン代がかかりませんが、課税されない金額はマイカーなどと同じです。

ここまで見てきましたとおり、この規定は、実費ではなく金額だけが定められています。その点が、電車やバス通勤とは異なります。電車通勤などは実費(しかも経済的かつ合理的な)に限られますが、マイカー等通勤の場合は、実費うんぬんは無関係です。

複合タイプの人

複合タイプ、たとえばマイカー通勤(有料道路あり)、パークアンドライドが考えられます。この場合は上記施行令(四)です。この場合は、(一)と(二)の合計額、ただし15万円が上限となります。

リモートワーク併用の場合は

最近は勤務日全日は出社せずリモートワークを併用にて就業する人もいるのではないかと思います。上記施行令の規定では、「~を常例とする者」と連呼されています。いつもそうするという意味だとすると、たまに出社する程度だとどうなるのかなという疑問があります。ただ、たまにしか出社しないけど出社する職場はいつも一緒、つまり通勤経路と方法が一定なら「常例」と言えるような気もします。

そもそも税制は、従業員は特定の職場に出社することを前提としている傾向があります。つまり、職場に従業員を紐づけているということです。税制のほか社会保険制度もそういうところがあるようです。リモートワーク時代にキャッチアップしきれていない印象が否めません。

雇用主の視点

通勤手当を支給する側、つまり雇用主はどう考えるべきでしょうか。前述したとおり、通勤手当は支給してもしなくてもかまいませんし、全額支給でも一部支給でもかまいません。福利厚生というと少しちがう気もしますが、特に遠方に居住している従業員に対して手厚い福利厚生のひとつと言えるかもしれません。

支給しないでいいならしないって考えてしまうかもしれませんが、求人広告などを見ると、ほとんどの求人では「通勤手当は全額支給」となっているようです。そんな中で支給しないと掲載してしまうと、ワル目立ちしてしまうかもしれませんのでご注意ください。求職者はたくさんの求人を見て選んでいます。たくさん見ていると、目が肥えてきます。ですので、ワル目立ちしてしまうと、遠方居住者だけでなく近隣居住者からもよく思われないかもしれません。「私は関係ないけど、なんだかケチくさい会社だな」と。ケチることは大事ですが、ケチってると思わせてはならないのです。

それから、通勤手当は上記施行令の範囲内であれば非課税ですが、社会保険料額の計算では異なる取り扱いとなります。社会保険料額の計算上、支給額に通勤手当も含むそうです。社会保険料は雇用主が半額しなければなりません。つまり、通勤手当を支給してしまうと、通勤手当自体のほかその分の社会保険料も生じてしまい、思わぬ人件費の膨張を招いてしまうということです。

さらに、通勤手当は自宅と職場の関係性のイシューです。そう考えると、社宅制度との組み合わせ技もいいかもしれません。基本給と通勤手当と社宅の会社負担分との関係性、加えてたとえば社宅を利用しない人には住宅手当を支給するなど。基本給を先に決めてしまう雇用主さんが多いように思いますが、そうではなく、様々な手当との関係性をも考え抜いて、雇用主・従業員双方にウィンウィンな給与制度を構築していただきたいと思います。

まとめ

通勤手当ごとき、ですがまだまだ知らないことがたくさんありました。個人的には、通勤手当ってあんまり好きではありません。どこから通おうが知ったこっちゃないですし、給与所得控除によって給与所得者の必要経費はカバーされていますから、別に非課税規定はいらないという意見です。通勤手当の非課税によって遠距離通勤を推奨し、郊外にベッドタウンが広がっていったのだと思います。首都圏に人材を流入させたという反面、ベッドタウン化してしまった郊外の産業発展を疎外してしまったと思います。

2022月1月23日


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