まつきよ税理士事務所

1年ごとに区切ることの不条理

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1年ごとに区切ることの不条理

個人事業主も会社もそうなんですが、1年ごとに区切って税金計算をしなければなりません。当たり前のことのようですが、よく考えてみるとおかしなことのようにも思えます。注意点も多いところですので、今回はその中から消耗品の棚卸しについてご紹介したいと思います。

購入しても未使用なら

個人事業主を前提にお話ししていきます(会社もだいたい同じですが)。商売をしていれば絶えずいろいろなものを購入し、それを使い、使い切ったらまた購入し使うを繰り返していると思います。その繰り返しは年末年始に完全に途切れるわけではなく、年をまたいでつながっているはずです。たとえ年末年始にお休みしたとしても、在庫も何もスッカラカンにして年越しするわけではないはずです。ですから、商売は年をまたいでもつながっているものです。それを便宜上1年ごとに区切るわけですから、自然なことではありません。

たとえば、在庫。昨年のうちに仕入れたけれど、昨年中には売れず、年をまたいで今年も店頭に並んでいるものがあると思います。お店の備品などは何年も使用するかもしれません。それから、飲食店であればレジ袋やお弁当ケース・箸やおしぼりなど、小売店であればショッピングバッグ、事務所であればコピー用紙や付箋など、みんな共通でトイレットペーパーなどをストックしていると思います。

1年でぶった切りますので、切り口、つまり年末時点でのストックを決算書に表示しなければなりません。とりわけ青色申告というのは複式簿記の規則によって帳簿を作成する、つまりストックとフローが表裏一体ですので、ストックを明示できないのなら、おまえのそのフローはいいかげんだなとバレてしまいます。

棚卸し

所得税法施行令第三条(棚卸資産の範囲)には次のとおりあります。

所得税法第二条第一項第十六号(棚卸資産の意義)に規定する政令で定める資産は、次に掲げる資産とする。
一 商品又は製品(副産物及び作業くずを含む。)
二 半製品
三 仕掛品(半成工事を含む。)
四 主要原材料
五 補助原材料
六 消耗品で貯蔵中のもの
七 前各号に掲げる資産に準ずるもの

第六号に「消耗品で貯蔵中のもの」とあります。そうです、消耗品も棚卸しの対象です。消耗品とは何かは定義がないようですが、減価償却資産以外の物、あるいは、一回もしくは数回の使用で無くなったりダメになったり消費されてしまう物、でしょうか。いわゆる使い捨てのもの。トイレットペーパーなどが想像しやすいのではないかと思います。

消耗品は、使えばなくなる物でしょうから、ストックしておくと思います。貯蔵中とはストックしていることと同じ意味でしょう。

消耗品は棚卸しの対象ですから、年末に棚卸しをしなければなりません。ということは年内最終営業日にトイレットペーパーの在庫数を数えなければならないということになります。そればかりでなく、選定した評価方法に則って単価も把握しておかなければなりません。

そんなバカな

ここまでお読みいただいて、そんなバカな話があるかとお思いの方もいらっしゃるかと思います。そんな面倒なことはしてられない、どこのアホが年末にトイレットペーパー数えるんだと。そこで、こんな通達があります(所得税法基本通達37-30の3)

消耗品その他これに準ずる棚卸資産の取得に要した費用の額は、当該棚卸資産を消費した日の属する年分の必要経費に算入するのであるが、その者が、事務用消耗品、作業用消耗品、包装材料、広告宣伝用印刷物、見本品その他これらに準ずる棚卸資産(各年ごとにおおむね一定数量を取得し、かつ、経常的に消費するものに限る。)の取得に要した費用の額を継続してその取得をした日の属する年分の必要経費に算入している場合には、これを認める。(昭55直所3-19、直法6-8追加)
(注) この取扱いにより必要経費に算入する金額が製品の製造等のために要する費用としての性質を有する場合には、当該金額は製造原価に算入するのであるから留意する。

消耗品は棚卸ししなければいけないけれど、「事務用消耗品、作業用消耗品、包装材料、広告宣伝用印刷物、見本品など」については棚卸ししてなくても、税務署員は指摘しないよということを言っています。ただし「各年ごとにおおむね一定数量を取得し、かつ、経常的に消費するものに限る」。この但し書きが大事です。

常にある程度決まった数量ストックしていて、また、常にある程度決まった数量を消費する消耗品だったら棚卸ししてなくても、税務署員は指摘しませんよということです。

消耗品はだいたいそういうものだから、ほとんどの消耗品は当てはまると思います。しかし、たとえば節税対策と称して、普段はストックしないものをまとめ買いしたり、あるいは、普段と比べて明らかに大量のまとめ買いをするのは、上記の通達には当てはまらないでしょう。あくまでも通達なので、当てはまるか当てはまらないかは税務署員の捉え方で決まると思います。

ちなみに、たとえばトイレットペーパーを使い切れないほど大量にまとめ買いして、裏でこっそりメルカリで売りさばくというのであれば、それは消耗品ではなく商品です。商品については上記の通達は適用されません。

(おまけ)備品は

消耗品ではなく、備品だったらどうでしょうか。備品は減価償却資産ですので、取得価額が10万円未満のものは(使用開始年の)必要経費になります。所得税法施行令第百三十八条にそのことが規定されています。

  居住者が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の用に供した減価償却資産(第百二十条第一項第六号及び第百二十条の二第一項第六号(減価償却資産の償却の方法)に掲げるものを除く。)で、第百八十一条第一号(資本的支出)に規定する使用可能期間が一年未満であるもの又は取得価額(第百二十六条第一項各号若しくは第二項(減価償却資産の取得価額)の規定により計算した価額をいう。次条第一項において同じ。)が十万円未満であるものについては、第四款(減価償却資産の償却)の規定にかかわらず、その取得価額に相当する金額を、その者のその業務の用に供した年分の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入する。

もし10万円以上でしたら減価償却します。さて、上記規定のポイントは「業務の用に供した年分の」というところです。買った日(受け取った日)ではなく、使用開始した日です。エアコンを年末に購入したけど取り付けしたのが翌年でした、という場合は翌年の必要経費になるということです。

もうひとつのポイントは文末「必要経費に算入する」です。「算入できる」とか「算入してもよい」ではありません。強制ですのでご注意ください。

まとめ

商売の状況を1年ごとに区切るってどういうことか、からはじまって消耗品の棚卸しを見てきました。ストック欄(貸借対照表)があっさりしすぎてる決算書に出会うことがありますが、あれは商売やってる人に対して少し失礼だなと思います。みなさんのように一生懸命やってる商売を年末でぶった切ると、その断面は、きっと金太郎アメのようにカラフルで複雑だけれど意味のあるものになっているはずだからです。

2022月1月17日


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